宇宙への憧れが教えてくれた、人生の目的
――生い立ちから創業までの経歴について教えてください。
宇宙好きが高じて「人間の生きる意味や価値」について考えているような子どもでした。「宇宙が無から始まり、人間も無に戻っていくこの世界で、私個人が幸福を追求するだけでは意味がない。むしろ、世の中に価値ある足跡を残すことこそが重要なのではないか」と幼心に感じていたのです。
高校生のときには、次世代に残るような大きな価値をつくるために具体的に何ができるかを考え、「若者に良質な教育を提供する」という志に辿り着きました。教育制度に革新をもたらすために文部科学省の中枢で政策に関わろうと、東京大学を目指して猛勉強を開始しました。しかし、自分の限界を超えるほどの努力をしたにもかかわらず、東大に合格することはできず、人生最大の挫折を味わいました。
その後、早稲田大学商学部に進学した私は、若い起業家がITの力で社会を変えていく「ベンチャーブーム」を目の当たりにします。社会を変える方法は官僚の道だけではないと知り、これが再び前を向くきっかけになりました。
卒業後はソフトバンクBBで新規事業立ち上げを経験後、リクルートに入社。営業として初めは「1アポ1クレームの男」と呼ばれるような状態でしたが、少しずつ成果を出せるようになり、3年目には関西カンパニーMVPを受賞しました。その後、リーマンショックの際に早期退職の募集があり、起業のチャンスだと捉え、若者の教育分野で独立します。
しかし初めての起業は失敗に終わり、退職金も失業保険もすべてつぎ込んだ末に、手元に残ったのはわずか3,000円でした。改めて会社員としてキャリアを再開し、2社で3年半一生懸命勤めました。しかしやはり独立への思いが断ち切れず、2度目の起業を決意します。
――そこで本気ファクトリーを創業されたのですね。
会社員としてのキャリアを歩み、新規事業開発に多く携わる中で、事業を成功に導く法則やつまずきやすいポイントが見えてきました。数多くの実践知が「今度はいけそうだ」という自信を与えてくれました。そして、高校時代より抱き続けてきた「若者に良質な教育を提供する」という志を、起業を通じて実現していくことを決心したのです。
まず、自ら率先して起業し、新しい事業を生み出す。事業を通じて社会課題の解決を図り、若者が活躍できる場をつくります。その上で、起業家教育の場を提供したり、若手起業家に投資したりすることで、若者の挑戦を後押しするのです。
本気ファクトリーはこうした想いから生まれた会社です。若者が未来に希望をもてる社会をつくる、それが私たちのミッションです。
新規事業と起業家教育の両輪で、イノベーションを創出
――事業内容について教えてください。
本気ファクトリーでは、大きく分けて2つの事業を展開しています。
ひとつは、企業の新規事業開発のサポートです。事業立ち上げのノウハウを体系化し、それを動画コンテンツ化したWebサービス「だれでも新規事業つくれるカレッジ」を開発・運営しています。新規事業担当者の方に実践的なスキルを身につけていただくことで、事業立ち上げの成功率を高めるお手伝いをしています。
もうひとつは、起業家育成のための教育事業です。「イチから起業オンライン」というプラットフォームを通じて、起業を志す方に必要な知識やノウハウを提供しています。起業のイロハから、具体的な事業プランの立て方、資金調達の方法など、起業に必要な要素を体系的に学べる教育プログラムを用意しています。
最近では、これらの事業で培ったノウハウを活かし、人材開発支援助成金を活用したオンラインDX研修も提供しています。すでに100社近くの実績があり、スムーズに助成金を受け取れる仕組みを構築しました。ChatGPTの活用方法など、ビジネスパーソン向けの実用的なテーマを扱った研修が好評です。
――事例や実績について教えてください。
これまでスタートアップ・企業内起業を合わせて、役員や株主として40以上の起業に参画してきました。スタートアップの成功事例としては、スマートロックを中心に手掛ける株式会社ビットキーの創業時の執行役員としてマーケティングを中心に担当し、創業2年間で約800億円のバリエーション(企業価値評価)まで成長させたことです。
企業内起業の事例として印象深いのは、当時H.I.S.グループだったH.I.F.株式会社(旧社名:H.I.S. Impact Finance株式会社)に創業時から関わり、MBO(マネジメント・バイアウト)に成功したことです。途中から取締役に就任し、経営に広く携わりました。2年間で100億円規模にまで成長し、手応えを感じました。
――強社ポイントを教えてください。
最大の強みは起業支援の包括的なアプローチです。大企業の新規事業支援から、スタートアップへの投資・経営参画、U30の若手起業家への投資活動、そして高校生や大学生への起業家教育まで、起業を軸に多角的な活動を展開しています。
これを支えるのは、これまでの経験と実績です。大企業での新規事業立ち上げや、複数のスタートアップで培ってきた知見は、本気ファクトリーの大きな武器になっています。また、将来有望な若い起業家を発掘し、資金面だけでなく事業面でもサポートする。こういった息の長い支援で、次世代の起業家を育てていく姿勢も大切にしています。
「起業の教習所」が導く、誰もが希望をもてる未来
――今後のビジョンについて教えてください。
「起業の教習所」をつくることを目標にしています。自動車の運転には教習所がありますが、起業にはそのような仕組みがありません。そのため多くの人は、起業を「特殊な人が大きなリスクを負いながら行うもの」だと考えています。
しかし、起業にも教習所があれば、誰もがしかるべきステップを踏みながら起業のスキルを学べるはずです。私は「起業は一部の人のためのもの」というイメージを覆し「誰でも当たり前に起業できる」社会を実現したいのです。
起業の敷居が下がれば、誰もが自分の力で人生を切り拓いていけます。今の会社に不満があっても、新しいキャリアに挑戦する選択肢が増えるのです。人々が自由に生き方を選べる世の中なら、若者ももっと希望をもてるはずです。
「起業の教習所」の難しい点は、起業プロセスを段階的に学べる仕組みのデザインです。第1段階では個人で商売ができるスキルを、第2段階では組織を動かすマネジメント力を、最終的には、投資を呼び込み事業を大きく成長させる方法を体得することが必要でしょう。そして各段階に適した制度づくりやサービス開発、さらには起業家の心理的なサポートなど、多面的な仕組みを組み込んでいく必要があると考えています。
そこをきちんと整備できれば、起業希望者がどんどん事業を立ち上げることで経済活動が回り出し、インパクトを与えられるはずだと期待しています。
――仕事上で大切にされていることを教えてください。
弊社の名前は「本気ファクトリー」。「本気」とは、具体的には二つの要素から成り立つと考えています。ひとつは「明確な目標をもつこと」。もうひとつは「その目標に向かって具体的な道筋を描き、実直に行動すること」です。
スタートアップの世界では、不確実性が常に付きまといます。だからこそ「目標と計画」の2点が大切なのです。まずは自分の目指す未来を言語化し、明確なゴールを設定すること。その上で、ゴールに至る道筋を可能な限り具体的に描いていく。そうすれば、変化し続ける不確実な環境下でも、その計画をコンパスに、迷わず前に進んでいけるはずです。