借金返済で始めたアルバイトが創業のきっかけに
――創業されるまでのビジネスの経歴を教えてください。
初めて働き始めたのは16歳のときです。高校生のときにバイクで事故を起こし、約300万円の借金を抱えてしまいました。私は5人兄弟でしたし、裕福な家庭でもなかったので、自分で借金を返そうと思い、高校に通いながら、昼は引越し屋、夜は居酒屋のアルバイトを掛け持ちして働くようになりました。引越し屋は4社で経験を積み、居酒屋では「店長になってくれ」と言われるくらい責任感をもって働きました。20歳で借金を完済し、その後21歳で起業したので、実は正社員として働いたことはないんです。
――引越し業で創業することにしたのはなぜですか。
アルバイトに引越し屋を選んだのは、日払いで収入も良かったからです。しかし働いてみると、お客様にとても感謝されて喜んでもらえることや、体を動かす楽しさなど、やりがいのある仕事だと思いました。ただ、起業は割と勢いで決めました(笑)。居酒屋の仕事をメインにすると、夜に友達と遊べなくなるので、生涯を通じて続けるとなれば、昼間の引越し業のほうが良いというくらいの感覚でした。また、当時はまだ若かったですが、30歳を超えてもずっと現場で働くのは体力的に息切れしそうだと思い、「自分で会社を興して、若い人に現場を任せよう」と考えていました。
――その後25年間経営を続けられているのですから、先見の明があったのですね。
アルバイト時代に、仲間の会社に派遣されることがあり、自分の給料と会社の売上の差から、会社がどれだけの利益を得られるかはわかっていました。チラシを配ったら1,000枚に1枚は反響があることも経験から予測できましたし、周りの小さな引越し屋の社長たちが成功しているのを見ていて、自分にもできるかもしれないと感じていたんです。最後に働いた会社が、大手で頭角を現しているスーパースターのスタッフたちを引き抜いて設立された会社だったので、そこでおもてなし精神や技術面について学べたのも大きいです。
引越し業のスキルを活かしサブスクを開始
――事業内容を教えてください。
弊社は主に引越し業を行なっており、個人の引越しはもちろん、業界では数少ないオフィスの引越しも15年前から手掛けています。コピー機や金庫などの重たいものも運べますし、机や大きなテーブル、本棚などの什器を分解して運び、また組み立てて設置するという解体・施工作業も行います。さらに、電気・インターネットの契約手続きや、移転後のレイアウト、内装のご提案まで、ワンストップのサービスを提供しており、特にベンチャー企業様から、手軽で頼みやすいとご好評をいただいています。
東京、横浜、埼玉、仙台の4か所に拠点を置いているので、個人・オフィス問わず、長距離の引越しに強いところも特長です。特に東北地方では引越し業者が少ないこともあり、関東と東北間の引越しを多くご依頼いただいています。コストパフォーマンスを重視し、大手さんより低価格帯を実現していることもあり、お客様にも非常に喜んでいただいています。リピートやご紹介での依頼が多く、年間で1万件以上の引越しを請け負っています。
――時代に合わせた新しいサービスも積極的に取り入れていますね。
現在多くの業者が取り組んでいるオンライン見積もりを、弊社ではコロナが始まった2020年ごろから、他社に先駆けて導入しました。コロナ禍が明けた後も、スタッフが家の中に入ることに抵抗を感じるお客様からのご利用が増えています。2024年3月からは、業界ではおそらく初めて、個人向けに引越しのアフターサービスを提供するサブスクを開始しました。月額1,280円で、加入から2か月間はエアコンのクリーニングが1回無料、その後は半額で提供し、模様替えの際の家具の移動や新品家具の組み立てを、年1回、2時間まで無料でサポートしています。さらに、不用品の処分や鍵の紛失、水回りのトラブル、ガラスの破損時の出張費については、何回でも無料で対応しています。弊社の引越しサービスのご利用の有無に関わらず、個人宅であればどなたでも加入できます。2024年度中には、オフィス向けサブスクも展開する予定で、月額1万円程度で、社員さんの福利厚生向けにさまざまな割引が利用できるサービスを付加するなど、より充実した内容を計画しています。
――引越しのサブスクはおもしろいですね。その発想はどこから生まれたのですか。
経営者が集まる研修に参加した際に、「今の世の中はなんでもサブスクだ」という話を聞いたことがきっかけです。同じ人が毎年引越しを行うわけではないので、引越しサービスだけに特化したサブスクを提供するのは難しいですが、引越し業者がもつスキルをサブスクにするのは実現可能だと思いました。引越し業者は、単に物を運ぶだけではなく、実はさまざまなスキルをもっており、それをお客様の悩み解消に活かせるのではと考えたのです。弊社はリピーターのお客様が多いとはいえ、引越しの売上を予測するのは難しい面があります。ですから、安定した収入を見込めるサブスクは、弊社にとっても大きなメリットがあるのです。
――強社ポイントを教えてください。
常に「引越し×エンターテインメント」を意識している点です。私たちは創業当初から「引越し業者はヒーローの集まり」という考え方をしていて、それが社名に「スター」を使った理由でもあります。例えば、トラックには、ヒーローをイメージさせる「スターマン」というオリジナルキャラクターをデザインしており、段ボール箱はユニークな吹き出しを描いたものを使用しています。電車の広告デザインにも工夫を凝らし、引越しを楽しく演出することを目指しています。このような取り組みがブランディグとして成功しており、お客様や業界からも「トラックがかっこいいね」などの声を多くいただいています。SNSにアップした動画も好評で、それを見た若い世代からのスタッフ応募が増えてきました。現場では、テキパキと動ける20代の活動的なスタッフが主に担当し、全員が爽やかなポロシャツの制服を着用しています。茶髪やピアスなどのアクセサリーは禁止しており、お客様に安心していただけるような誠実な身だしなみにも気を配っています。
目標は世界進出!そして宇宙へ
――今後のビジョンを教えてください。
日本の人口が減っていくと予想されるなかで、今後は世界に目を向け、人口が増加している国への進出も目指しています。国内では、自動運転トラックなどの最新技術も積極的に導入し、より安全で効率的なサービスを提供していきたいですね。そして、もっと先の未来、人類が月や火星に移住するようになったら、弊社もロケットを保有し、宇宙での引越サービスを提供できる企業でありたいと思います。我々が生きている間に達成するのは難しいかもしれない壮大な目標ですが、弊社の社名にある「スター」が「ヒーロー」の象徴だけでなく、「星」の間を移動する企業としての意味をもつことを夢見ています。
――最後に、仕事で大切にしていることを教えてください。
やはり、経営理念である「安心、誠実、感動」です。お客様に喜んでいただくことを第一に考え、安心で安全な作業を提供し、時間や約束を守り、嘘をつかない。このような基本的なことを守って普通に仕事をしていれば、引越し業は、お客様に感動してもらえる仕事です。さらに、会話をすればお客様の思い出に残り、名刺を渡すことで名前を覚えてもらうこともできます。私自身も「20年前に担当してもらった山本さんに引越しをお願いしたい」と連絡を受けることがあります。現在は現場に出ないので、直接お客様から感謝される機会は少ないですが、アンケートで感謝の言葉が多く寄せられ、良い口コミが増えるのを見ると嬉しいですね。従業員たちにも同じ価値観を共有し、幹部として成長してくれることを願っています。