予防医療こそ、多くの命を救うことができる
――起業されるまでの経歴について教えてください。
4歳から医師を目指して東京医科歯科大学医学部に進み、在学中に予防医療に興味をもち、自発的に詳しい先生のもとで学びました。卒業後は総合診療医としてのキャリアをスタートさせましたが、予防医療への想いが強く、翌年の2018年に、医師を続けながら現在の会社を立ち上げました。
――予防医療に着目して創業した背景を教えてください。
私が医学部5年生のときに経験した、とある不安定狭心症の患者さんの手術が、起業を志すきっかけになりました。10人以上のスタッフで夜中まで緊急の開胸手術をしてなんとか一命は取り留めたのですが、あとで話を聞くと、元々多くのリスク要因を抱えていたことがわかったのです。もっと早い段階で医師が介入できていれば重症化を防げたはずで、無力感を覚えました。
救急車で運ばれてくる患者さんは、命が助かるとハッピーエンドのように思われますが、実際はそうではありません。手術で体に大きな傷が残りますし、結果的に本来の寿命が縮まることもあり、完全に健康だった状態には戻らないのです。また、日本人の半数以上が、癌、心筋梗塞、脳卒中で亡くなっています。今の日本での医師の役割は、症状を訴えて来院する患者さんを治療することです。しかし、これらの病気は、自覚症状が現れた時点で末期であることが多く、どんなに優秀な医師でも、助けられない命の方が多いのです。
真のハッピーエンドは、「あのときこうしていれば長生きできた」と後悔することなく一生を終えることのはずです。症状がなく自分は元気だと思っている段階から、医師がコミュニケーションを取ることで病気を防げる予防医療こそ、多くの命を救えると確信しました。安定した勤務医の道を離れるリスクはありましたが、長く続けるほどそのリスクは高まります。それなら早期に起業し、自分が納得できる仕事を追求したいと思いました。
「病気を治す」から「病気にさせない」へ
――具体的なサービス内容を教えてください。
サービスの核となるのは、顧問弁護士や税理士のように、メンバーになっていただいた方にパーソナルドクターを提供することです。何か揉め事が起きたら優秀な弁護士を探すのが一般的だった昔とは異なり、今では多くの企業がトラブルを未然に防ぐために顧問弁護士を置いています。パーソナルドクターも同様に「病気を未然に防ぐ」ことを目的としています。メンバーは、いつでもスマートフォンで自身の健康データを見ることができ、パーソナルドクターにも共有されます。そして、一人ひとりにベストな食事やサプリ、運動、必要な検査など、健康寿命を伸ばすための戦略をアドバイスします。ドクターには、チャットやビデオでいつでもアクセスできるので、病院に行く時間がない多忙な経営者も安心です。
――健康診断や人間ドックで健康を管理することとの違いは何ですか。
健康診断を毎年受けている人とまったく受けていない人の死亡率を比較すると、実は1%も変わらないという論文があります。健康診断を受けているだけでは、死ぬリスクは下がらないということです。原因は2つ考えられ、1つ目は健康診断で異常が見つかってもおよそ80%の人が放置してしまうことです。2つ目は、健康診断が、重症化した病気を発見するために機能しても、長生きするためのものではないことです。例えば肝臓癌に進行する前段階の脂肪肝や脂肪肝炎を見つけるには、データを深く読み解かなければわかりません。弊社では、健康診断の約3倍の採血項目から非常に細かいデータを収集し、さらに、ご本人や家族の既往歴、生活習慣などに基づいて健康リスクを予測し、必要な検査をパーソナライズします。100人いれば100通りの死亡リスクがあるわけなので、一人ひとりに適した検査を選択することはとても大事です。しかし、現行の人間ドックは、100人全員が同じ検査を受けるようになっており、自分に必要な検査を適切に選ぶことは難しくなりがちです。
――強社ポイントを教えてください。
弊社の強みは、健康に長生きさせるプロであることです。現在日本では、予防医療に取り組む医師が非常に少なく、その点でほかに類を見ないサービスを提供しています。創業してまだ数年ですが、従来の人間ドックで見逃されていた癌を早期発見し、克服された事例がすでに多数あります。生活習慣に関連する数値を改善し、ダイエットを成功された例も多いです。運動や食事に気を使っているから大丈夫だと思っている方もいますが、内臓の状態はまた別の話で、自分自身でコントロールするのは容易ではありません。弊社のパーソナルドクターが、データに基づいて医学的なアドバイスを提供することで、リバウンドすることなく、ダイエットや健康を実現できます。
「パーソナルドクターが当たり前」になる未来を実現したい
――今後のビジョンについて教えてください。
目指しているのは、経営者がパーソナルドクターをもつことが当たり前の世界です。経営者の方は忙しく、健康よりも仕事を優先しがちですが、病気で倒れてしまうと、組織や従業員、社会にも影響が出ます。そうなる前に救いたいという想いがあります。そして、いずれは従業員の方にもサービスを提供し、最終的に社会全体の健康を向上させたいと思っています。
――最後に、仕事をしていく上で大切にしていることを聞かせてください。
ゼロベース思考でいることを大切にしています。『常識』のほとんどは、先人が当時の価値観でつくり出してきたものなので、必ずしも今の時代に最適化されているわけではありません。それなのに、過去のルールに従って「それしかない」とみんなが思っていることに昔から疑問を感じていました。『ドラゴン桜』という漫画に出てくる国語の先生が「世の中にWHYを唱えろ」というシーンがあるのですが、なぜこういうルールができたのか、ゼロから考えていくと今の医療体制の矛盾もみえてきます。医者が病院で患者さんが来るのを待っているという構造は、感染症で多くの人が亡くなっていた江戸時代から変わっていません。人が馬から車に乗り換えたように、医療も病気を治してくれるだけの医者から、健康で長く幸せに生きることに真摯に向き合ってくれる医者を探す時代が来ると思います。弊社の想いに共感し、健康を手に入れ、人生を豊かにすることを選んでくださる方が1人でも増えることが私の励みです。